熊本の女子大学でマンガ講座開講

世の中、思わぬところで色んなつながりができているものだ。このブログやかつての記事を読んだ大学の先生から思いもかけない話が飛び込んできた。熊本の某女子大学でマンガの話を半年間やってもらえないかという申し出だ。去年のゲゲゲの女房展以来色んなところで講演依頼が相次いでいるが、大学からは初めて。気合を入れて準備しなくっちゃ。

というわけで講座のシラバスを紹介しよう。

講義内容

・戦後漫画文化の基礎を築いた貸本漫画 ― 水木しげるの初期作品とアメコミの不思議な関連性
トキワ荘伝説を問い直す ―手塚、石森、藤子、赤塚の再検証と「裏トキワ荘物語」
・反手塚治虫の動き ―劇画ブームと少年マガジンの青年化路線につぶされそうになった手塚
・マンガのマストブック選定の動き ―誰もが納得するマンガのセレクションは可能か
・漫画家は職業なのかそれとも生き方か ―漫画を描くだけで食っていけるマンガ家は存在するのか
・ワンピースはマンガの古典になった? −世界で最も売れた漫画家尾田栄一郎手塚治虫になれるか
・ナルトがワンピースよりも海外で受けるわけ −忍者マンガの正統な系譜をたどる
コミケットはマンガ文化のゆりかご −世界最大のマンガイベントコミケの過去・現在・未来
・紙媒体マンガの消失 ―サラリーマン金太郎が社長になったらマンガはすべてデジタル化される?
・オタクの逝きかた −あなたが死んだら貴重なコレクションはどんな運命をたどるだろう
・マンガによる町おこし  −成功例と失敗例 熊本で進むマンガ拠点化はうまくいくのか
・法律とマンガ  −マンガの著作権は誰にあるのか、マンガの表現規制はどこまで進むのか
・マンガアーカイブを作ろう −個人、国、県、市、NPOの取り組み
・国境を越えるマンガ ー台頭する韓国・中国に対抗して日本はマンガの中心地であり続けられるか
・マンガは終ったか −批判精神、風刺性、ダイナミズムを失ったマンガに未来はあるか

さよなら特急列車有明、リレーつばめ

長い間通いなれた福岡行きの特急列車有明リレーつばめが間もなく姿を消す。あの灰色の車体、ゆっくりした座席ともあと2ヶ月足らずでお別れだ。代わって登場するのが新幹線さくら、みずほ。でも新幹線を利用するためにはいつも乗っている上熊本から一旦熊本駅まで戻らなくてはならない。代金も片道1,500円以上高くなるし、あんまり早く博多に着くものだからゆっくり寝る暇もなくなってしまう。
新幹線が開通すると一体誰が得をするのだろう。熊本も博多も通過点になり、ストロー効果で購買力は大阪に吸い上げられるだけではないのか。新幹線開通で浮かれていられるのは最初だけなのかも知れないのに。

もっともリタイアする車両に何だか妙にシンパシーを感じるのは、自分の今後と重ね合わせているかもしれないね。

本たちの悲痛な叫びが聞こえる

予備校業務も一区切りついたので4日前から本格的に本の整理作業に取り掛かっている。これまで25年のキララ文庫の蓄積というか澱(おり)のような沈殿物が各所にたまっていて片付けは容易ではない。
倉庫として学生アパートを4部屋借り切っているが、ここも稼動している部分よりも凍結している部分のほうが多い。特に押入れは、本の重みで仕切り板が抜けて斜めになったままその上に本が積み重なってしまっている。少しずつ本を取り除いていくしかないが、下手をすれば一気にバランスが崩れ、取り返しのつかないことにもなりかねないので、作業は慎重を要する。
さらに問題なのは、部屋に入りきれずに外に積み上げているダンボール箱の山。ブルーシートをかけてはあるが、隙間からどうしても水分が入り込み、カビが生えてしまったものもある。一番下に積んであった箱には1960〜70年代のマンガが入っていたが、これもカビとシロアリにやられてしまっていた。ジョージ秋山の「ほらふきドンドン」藤子不二雄の「バケルくん」、初期サンコミが被害にあったのを見て茫然自失。一刻も早くこの野積み状態から抜け出さなくてはいけない。「助けてー、水が、虫が、ネズミがゴキブリが、カビが・・・」という本たちの悲痛な叫びが聞こえてくる。
とりあえずはマンガ雑誌を一まとめにして違う場所に移動すること。2月半ばまでにはめどをつけなきゃ、このままじゃ本たちから復讐されそうだ。

ようやく日記を書けるようになった

前回から随分間が開いてしまった・・今日で今年度の受験対策も終わり、ようやく日記を書けるようになった。
この間、北九州漫画ミュージアムの準備室を訪ねたり、熊本マンガミュージアムの構想をまとめたりと結構色んな事をやってきたがそれはまた後日。とりあえず喫緊のテーマとしては21日にNHKのマンガ関連の取材を受けること、30日にマンガミージアムプロジェクト会議の準備をすることがある。さらにこの春休み期間にキララ文庫の店内大改装、図書館設立に向けての本の大整理が待っている。がんばらなくちゃあ。

この一年の最大の収穫

今年も間もなく終わり。色々あった一年だが最大の収穫は熊本マンガミュージアムが設立に向けて少しずつ動き出したことだ。キッカケは去年の古書即売会で「マンガと共に60年」という講演が文字になったこと。その本を読んだ近代文学館の館長が今年の夏に文学館で「ゲゲゲの貸本展」をやりませんかと提案してくれたのが話しの始まりだ。その頃議会でもマンガによる町おこしが話題になっていたこともあり、高校の同級生が知り合いの県職員を紹介してくれた。文学館で水木しげるの講演をやった時に、今度はその職員の人が「ワンピースで町おこし」をやろうという人を紹介。そこでみんなでいちど集まってミュージアムの話をしようということになり、マンガ学会のメンバー、県庁職員、町おこしグループ、文学館職員、同級生らを交えてはじめての会合を持ったのが9月。
一連の動きに興味を持ってくれた朝日新聞からミュージアム構想について連載でコラムを書いてみませんかという申し出があり、10月から12月まで毎週計10回色んな角度からミュージアム設立を呼びかけたのも功を奏したようだ。
それを受けて県議会議員自治体職員から話を聞きたいというオファーが相次ぐ。話を重ねるうち、非常に積極的な反応が返ってきて、先月末にはさらに本の保管場所まで提供してもよいという自治体も出てきてくれた。
東京の方からも、学会、ミュージアム関係者から協力を得ることができ、話は膨らむ一方だ。熊本大学でそれまでやってきたMAG会議をミュージアムプロジェクト会議に変更して、これまで三回会議を重ねてきた。
色んな人の手助けや縁が結びついてこれまでのところ話がとんとん拍子に進んでいる。ちょっと恐いくらいだが、このチャンスを逃さず一気に実現に向けて進めたいと考えている。

朝日新聞熊本版 視点@熊本 コラム最終稿(第10回)

●本文
2012年、北九州市に「漫画ミュージアム」がオープンする。この種類の博物館としては九州初となる。構想段階から関心を持ってみてきたが、同市で重ねられた議論は今後、同様の施設を作るときの参考になる。
 注目したいのが、この施設の方向性に関する議論だ。資料の収集や保存、研究を重視する「アーカイブ型」にするか、漫画の閲覧や関連イベントなど情報発信を中心にする「アキバ型」にするか。両案で意見が割れたが、予定地がJR小倉駅近くで広さの問題などがあり、情報発信を重視することになった。同市を中心に大学や企業、市民が一緒に進めてきた構想なので、オープンが楽しみだ。
 熊本も負けていられない。この欄でも紹介した「マンガミュージアム構想」も具体化に向けて検討を進めている。まずは施設。北九州との差別化を考えると、アーカイブ機能の充実が需要だが、広大なスペースの確保が必要になる。新たにハコモノを建てるのではなく、廃校や自治体合併で使わなくなった庁舎などの有効利用を考えている。漫画を使った町おこしを進める自治体との連動も検討中だ。
 蔵書は当面10万冊、最大で50万冊を目指したい。既存の施設では、京都国際マンガミュージアム20万冊、現代マンガ図書館(東京)18万冊、、米沢嘉弘記念図書館(同)12万冊とされる。アーカイブは数がモノをいう。できる限り多く集めたい。
 収集の方法は、個人コレクションの寄贈を基本にしたい。北九州でも広く市民に呼びかけている。本の処分に抵抗がある▽家族のコレクションの扱いに困っている▽閉店した貸本屋や古本屋、漫画喫茶店。こうしたケースは結構あるので、かなりの数が集まるはずだ。本の選別と運搬も問題になるが、ボランティアの力を借り、運搬費用も原則として寄贈者負担にすれば、何とか解決できそうだ。
 こうして出来るだけ費用を抑えた手作りのミュージアムを立ち上げたい。そこで心がけたいのは、研究者に使い勝手のよいアーカイブの提供▽気軽に漫画が読めるような利用料▽海外からの訪問者も利用しやすいサービスの充実などだ。そうすれば、熊本は漫画の聖地となり、ひいては地域に活力を生むことになると信じている。
 ミュージアム構想にご意見があれば、キララ文庫にご連絡を。〒860・0862 熊本市黒髪6の9の9、電話・FAX(096・345・4991)、電子メール(kirara@s6.kcn−tv.ne.jp)。
 (橋本さんの連載は今回で終わります)

●プロフィール
 はしもと・ひろし 1987年から熊本市で漫画古書店「キララ文庫」を営む。現在、漫画ミュージアムの県内設立に向けて奮闘中。時代を超えて読み継がれる作品を愛する「漫画バカ」。

砂漠の中にぽつんとたたずむキララ文庫

店も開店してそろそろ4半世紀になる。開店当時に生まれた子供が漫画を読む年令になって店に通い始め、やがて漫画を卒業して社会に出て行く。しばらくして結婚し子供が来て今度はその子供が店に出入りする・・そんな時間が何度も繰り返しこの店では過ぎていった。かつては店の隣りには酒屋、食堂、喫茶店があって賑わっていたがもう閉店して久しい。それでもキララ文庫の開店と時を同じくして営業を始めたラーメン屋さんは頑張ってきた、熊本では珍しい醤油ラーメンの店で、ボリュームもたっぷり、値段も安く学生に人気の店だった。キララとこのラーメン屋さんで何とか励ましあいながらこの20数年営業を続けてきたがついにこの12月に閉店することになった。
話を聞きつけてこれまでこの店にお世話になったかつての学生さんや常連客が連日押しかけ、店は座るところもないほどの忙しさだ。しかしそれも間もなくおしまい。そこの店長さんから「キララさんは何とか続けて下さいよ」という声をかけてもらった時は、思わず涙がこぼれそうになった。
キララのすぐ近くには永年営業を続けてきたコンビニがある。ここにも随分お世話になった。両替金が足りない時にくずしてもらったり、立ち読みしたり、おにぎりを買ったり・・ここの店長さんもよく子供を連れてうちの店に話に来てくれていた。
この店も二日前に突然閉店してしまった。寝る間も惜しんで営業努力を重ね、この不況時に黒字となっている採算店だったのに、すぐ近くに系列のコンビニが出来るというので、コンビニの本部は闘わずして撤退を決定。アオリを受けたのがこそこの店長さんというわけだ。
そのせいで夜になるとキララの周りは本当に暗くなった。まるで砂漠の中にぽつんとたたずむ店のようでなんともさびしい限りだ。キララ文庫ももういつまで続くかわからなが、色んな人たちから託されている思いがある限り続けようと思っている。売り上げはますます減っていく一方だけどね