ドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー」を観る

ドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー」を観る
この映画は、アメリカの国立美術館“ナショナルギャラリー“に2000点あまりのアート作品を寄付して話題となったヴォーゲル夫妻の軌跡を追ったドキュメンタリー。慎ましい生活の中から、30年以上に渡って作品を収集してきた夫妻。ふたりのアートに対する真摯な思いと日常を、日本人のジャーナリスト・佐々木芽生監督が捉えた心温まる1作だ。
http://www.excite.co.jp/ism/concierge/rid_20633/

この2人がポリシーとしているのは次のような点だ。
タクシーや地下鉄を利用するので手に持てるものしか買わない、相場や世間での評価は一切気にせず、自分がいいと思ったものだけ買う、気に入ったアーテイストの全作品を見た上で数点だけ買う、給料生活者なのでできるだけ安く、場合によってはただで手に入れる、買ったものは売らない、手放す時はまとめてミュージアムに寄贈する、アーティストが無名の頃から寄り添うようにサポートし、成功すればわがことのように喜ぶ、アートだけでなく動物や自然もこよなく愛する。2人の審美眼をうまく働かせてバランスよくコレクションを増やしていく、買ったものは家の中に積み上げるだけで特に貴重品扱いはしない、コレクションの両が膨大になりすぎたので目録などは作らない、2人の名前が売れてきたからといって決して偉ぶらず、庶民の目線を失わない・・

この映画を観てまず思い出すのは、NHK熊本につとめながら浮世絵、人形など美術工芸品の膨大なコレクションを残し、死後は熊本県立武術館に寄贈された今西菊松さんのことだ。この映画の夫婦と今西さんの間にはあまりにも共通点が多い。映画を作ったのは日本人の監督だそうだから今西さんのことが頭にあったのかも知れない。

次に思い浮かんだのがガロ編集長の長井勝一さん。長井さんは自分がこれはいいと思ったマンガはそれが世間から全く評価されていなくても徹底的に支え続けてきた。自分のことよりも無名の漫画家たちにチャンスを与え続け、それがいつしかマンガ界を支える人材に育っていくことを何よりも楽しみにしていた。自分の目を信じること、映画の夫妻にも通じるところだろう。


そしてこの映画は自分の生き方煮も重なって感じられた。マンガをただひたすら好きだから集め続け、市場から高い値段で買わずにできるだけ安く、場合によってはタダで手に入れ、コレクションを切り売りせずにできるだけまとめて保存し、そして今ではどこかのミュージアムに寄贈することを考えている。自分が映画の2人ほど高名で審美眼があるともっているわけではない。ただ映画のテーマとして掲げられた「金がものを言うようになった時、芸術は死滅する」という言葉が胸に迫る。お金はなくても、作品を愛し続けるだけで人は何事かをなし得るのだという思いが伝わってきた。この2人の足跡は、今後の自分の人生もに大きな影響を与えてくれたようだ。