第九回 原稿   変わり行く古本屋業界

熊本大学の近くでマンガ専門の古本屋を初めて間もなく4半世紀が過ぎようとしている。この間、マンガ業界にも古本屋業界にも様々なことがあった。古本屋によく足を運んだことがある人なら気がついていると思うが、最近は個人経営の古本屋がめっきり少なくなった。下通り、大学周辺にたくさんあった店も多くが姿を消し、現在組合加盟店で店舗営業しているところはわずか四軒。組合不参加店を含めると90年代には市内に30店舗以上がひしめき合っていたことと思うと隔世の感がある。

一方最近目立つのがブックオフのような新古書店だ。明るい店内、広い店舗面積、マニュアル化されたスタッフの応対、わかりやすい値段設定、頻繁に入れ替わる在庫などどれをとっても旧来の古書店には対応できないものばかり。古本屋という仕事は一人前になるのに何年もかかるという固定観念を取り払って、いつでも誰でもお金とマニュアルさえあれば開業できるようにしたことが成功の原因だろう。

さらに追い討ちをかけているのがアマゾンなどのネット古書店の進出。これまで古書店では長い時間をかけて本の適正価格市場を形成してきた。しかしネット市場では価格が一覧表示されるのでどんどん価格の切り下げ競争が繰り返され、あっという間に1円になってしまう。これでは店に並んでいる本が売れるはずもなく経営はどんどん苦しくなる一方だ。

絶版マンガ専門店も市内に7,8軒はあったが現在はうちだけになってしまった。全国的に見ても同様で、かつてはネット上でひしめき合っていたホームページも見かけなくなった。90年代に訪れた絶版マンガバブルの頃は、松本零士永井豪藤子不二雄赤塚不二夫などの作家、幼年マンガ、少女マンガ、恐怖マンガなどが飛ぶように売れたがそれも今では昔話だ。

結局今生き残っている絶版マンガ専門店には二通りしかない。ひとつは「まんだらけ」のように取り扱う商品の幅を広げ、希少性の高い原画やビンテージマンガだけでなく、アニメ関連のグッズ、セル画、同人誌、ゲームソフト、コスプレ用商品などを扱っている店だ。仕入れ先と販売先を広げるために多店舗展開、ネット販売展開を進めているのが特徴で、店舗面積、スタッフ数、売り上げ額も拡大大きくなっていばかりだ。

もうひとつは徹底的なシンプル路線をとり、扱うのは絶版マンガだけ、多店舗にもネット販売にも手を出さず、マンガ好きな人に少しずつ本を届けることに特化した店だ。そんな店があるマンガ作品の中で話題になっている。

芳崎せいむ作「金魚屋古書店」(小学館発行。11月末に11巻発売予定)に登場する古本屋では、新刊マンガは扱わず、ネットの目録販売はせず、関連情報満載の豪華な紙の目録を年に一度発行するだけ。ココが他の古書店と決定的に違うのは、誰もそのすべてを見たものがいないという膨大な在庫を有するダンジョンという地下倉庫の存在。これまで店長が集めてきた本に加えて、廃棄処分寸前だったマンガを救い上げたり、ファンから寄贈を受けたりで在庫量は増える一方だが、熱心なスタッフとお客さんンの協力で管理はきちんとされているという。

キララ文庫が目指しているのはもちろん金魚屋のような本屋だ。私が提唱する漫画ミュージアムの構想もこの地下ダンジョンがヒントになっている。というわけで次回はいよいよ最終回、のコラムの最後としてミュージアムプロジェクトの詳細をこお伝えしよう。

プロフィール

月刊マンガ雑誌「IKKI(イッキ)」において「金魚屋古書店雑記帳」というコラムを2004年から担当。金魚屋古書店に取り上げられた本についてのうんちくや、マンガ業界の最新情報を語っている