第7回記事

【本文】「漫画のデジタル化」 電子化でコンテンツの保存整理を 
 
 深刻な不況から抜け出すため、ある出版社がこんな構想を立てた。採算の取れない雑誌の廃刊▽ネット配信に特化した新雑誌の創刊▽漫画専用の電子端末を開発▽作品中にスポンサーの商品を登場させて費用を稼ぎ、購読料を無料化▽作品はデジタル化された単行本としてまとめる。週刊ヤングジャンプ集英社)で連載中の「新サラリーマン金太郎」に出てくる話だ。漫画の今後を示唆する興味深い話だが、個人的に特に関心を持って読んだのが「漫画のデジタル化」の部分だった。
 今年はiPadの発売などで電子書籍が話題になったが、デジタル化された漫画の売り上げも伸びている。特に携帯電話で読む漫画は急速に普及しつつある。雑誌や単行本を買わず、携帯やパソコンで漫画を楽しむ読者も急増している。近い将来、紙の作品を読む読者はほとんどいなくなるかもしれない。デジタル化された今後の作品は収納や劣化の悩みから解放され、整理や検索も簡単にできる。著作権の問題に注意を払えば、コンテンツの海外流出を心配する必要もなくなるだろう。
 だが、これまでに蓄積された紙のコンテンツはそうはいかない。この欄で指摘してきたように、原本の収集・保存が重要だが、紙は劣化しやすく、多くの人が同時に利用するのも難しい。そこで考えられるのがデジタル化だが、作品を1㌻ずつ読み取る必要がある。作品名や発行年、掲載誌などもデータ化しないといけないが、膨大な費用と手間がかかる。日本マンガ学会が地道な作業を続けてはいるが、人も資金も不足し、作業を終えたのはほんの一部。在庫書籍のデータベース化を進める国会図書館(東京)でも、漫画はほぼ手付かずの状態だ。
 本来なら国の支援を期待したいが、財政上の制約で難しい。そこで頼りになるのは、漫画ファンの力だ。データ化のフォーマットを統一した上で、それぞれで利用可能な資料を少しずつデジタル化し、国や自治体がその情報を管理する。協力者にデータを利用する権利を提供すれば、作業自体は無償でも参加する人が増えていくだろう。昨年、頓挫してしまった「国立メディア芸術総合センター」(アニメの殿堂)の予算を少しでもこの事業に回せば、すぐにでも実行可能な案だと思うのだが。