第1回原稿 マンガが危ない

熊本市鶴屋百貨店で毎年開かれてきた「古書籍即売展」の40周年に合わせ、昨秋、講演会を行った。題は「マンガと共に60年−戦後漫画私史」。漫画と育ち、漫画界の出来事をリアルタイムで経験し、還暦を過ぎてもその魔力から離れられない。自他ともに認める「漫画バカ」な私の人生を織り交ぜ、戦後の漫画史をまとめた内容だ。
 詳しくは「熊本古書籍即売展講演録」(出版・熊本県古書籍商組合)を見て頂きたいが、そこでは漫画史を1949年から10年刻みで説明した。簡単に言うと、①駄菓子のおまけ的存在だった赤本漫画が人気の黎明期(〜58年)②「少年サンデー」が生まれ、貸本漫画が全盛の草創期(〜68年)③多くの新書版や青年漫画が出た成長期(〜78年)④安定期(〜88年)⑤「少年ジャンプ」が600万部を超えた絶頂期(〜98年)⑥漫画の雑誌売り上げが減る一方、国際化した停滞期(〜2008年)⑦漫画雑誌の休刊が相次ぐ衰退期(09年〜)となる。かつて隆盛を極めた漫画は様々な困難に突き当たり、衰退を始めたと感じる。
 では困難とは何か。例えば、児童ポルノ規制など表現の自由に対する国家権力の介入▽市場拡大に伴って複雑化した著作権▽韓国や中国の漫画産業のシェア拡大▽若者の漫画離れ、など枚挙に暇がない。だが、最も心配なのは漫画原本(発行当時のオリジナル本)の保存。多くが酸性紙を使っており、時とともに劣化する。発行から半世紀以上の本もあり、早く手を打たねば貴重な本が消失してしまう。
 そもそも読み捨てるものだったので、文学作品のように保存の対象になっていない。運良く個人的に保管されている本も、所有者の高齢化に伴い、保管場所に困った本人や家族によってどんどん廃棄されている。今や貴重な本の保存は一部のコレクターに頼る状況だが、資本力のある大手書店により、高値がつく本だけが売買され、後は捨てられるという現実もある。
 さらに今、海外のバイヤーや研究者、大学が日本漫画を金に物を言わせて買いつけている。日本人が気付かぬうちに、漫画という貴重な文化遺産が海外流出の危機に直面しているのだ。
 そんな状況にどう対応したらいいのか。私たちにできることは何か。実例を交え、次回から考えて行きたい。