第五回 記事  大学とマンガ図書館

 2001年、日本マンガ学会(事務局・京都市)が設立され、06年には京都精華大に日本初のマンガ学部ができた。これらの動きから、学問や研究という観点から漫画の収集・保存の必要性が指摘されるようになった。列挙すると、マンガは消滅の危機にある文化財民俗学)▽評価が確定しない芸術(美術・文学)▽将来的に大きな価値を生むコンテンツ(産業・経済学)▽教材や研究の素材(教育学)となるなどといった具合だ。
 こうして社会的な正当性を得た漫画の収集・保存は、一部の大学を中心に進められるようになった。代表例が06年に京都市にできた「京都国際マンガミュージアム」。同大や同市、住民の連携で、安定した運営基盤と来館者を誇る施設に育っている。その成功に刺激を受けた明治大も、14年度に「東京国際マンガ図書館」を完成させる予定だ。
 両大学の動きには実は、県出身者が深くかかわっている。その1人が、京都のミュージアムで研究統括室長を務める吉村和真氏。熊本大大学院で漫画研究に没頭し、在学中はキララ文庫に立ち寄り、「今は資料も指導者も仲間もないが、いつか必ず漫画研究の大学を作り、学会を立ち上げる」とよく話していた。その言葉通り、彼は学会と京都精華大の漫画学部、ミュージアムの設立の立役者になった。
 明治大では米沢嘉博氏の存在が大きい。漫画評論の草分け的存在で、同人誌最大のイベント「コミックマーケット」の代表を長年務めた。彼と私は学年は違うが、小中高校とも同じ学校で一緒に漫画を集めた仲。06年に亡くなったが、09年には彼の蔵書を中心に同大に「米沢嘉博記念図書館」が設立された。前回紹介した「現代マンガ図書館」とともに、東京国際マンガ図書館の中核を担う予定だ。
 米沢氏の志を継ぐのが、少女漫画研究家で同大の藤本由香里准教授。世代は違うが、やはり同じ小中高の出身。我が校区には、漫画好きを育てる不思議な磁場があるのかも知れない。彼女が尽力中の同図書館には、漫画やアニメ、ゲーム、キャラクターグッズなど幅広い分野のサブカルチャー系資料が収集・保存され、世界最大の規模になる予定だ。こう書くと何だか前向きな気持ちになるが、世界的に見れば、日本の現状は随分と遅れている、次回は海外の漫画事情を紹介したい。