第四回 記事  漫画図書館の厳しい現実

 

「漫画の収集・保存なら国立の国会図書館がある。心配ないよ」。そんな言葉をよくかけられる。法律上は確かに、出版物の発行者は同館にすべて納本する義務がある。だが、みんなが決まりを守ってきたわけではない。蔵書数は日本一だが、戦後間もない頃の赤本や貸本漫画はほとんどそろっておらず、発刊初期の漫画雑誌や同人誌の数も少ない。せっかく所蔵されていても、漫画研究に不可欠なカバーや箱は廃棄されており、使い勝手の悪さから研究者にはあまり人気がない。
 民間に目を移せば、貸本漫画の蔵書が充実した図書館はある。その代表が、内記稔夫館長の蔵書を中心に1978年に設立された東京の「現代マンガ図書館」。先日書庫を見てきたが、昭和20〜30年代の漫画がずらりと並ぶ本棚は圧巻。30年以上、漫画家やファン、出版社などに閲覧や資料提供などのサービスも続けてきた。
 もう一つは、同じく個人の蔵書をもとにした福島県只見町の「昭和漫画館青虫」。貸本漫画の貴重な原本がそろい、NHKドラマ「ゲゲゲの女房」に資料提供したことでも知られる。
 だが、両館ともわずかな入館料では経費はまかなえず、経営は苦しい。内記館長は自らの生命保険を切り崩すなどして維持してきた。その努力も限界で、明治大学が新設する漫画図書館に吸収される予定だ。青虫の開館は5〜10月だけ。豪雪地帯という冬場のアクセスの問題もあるが、館長がほかの仕事で生活費を稼ぐ必要があるからだ。
 自治体が母体ならどうか。大阪府吹田市の「国際児童文学館」は、漫画の収集や閲覧、検索が充実した数少ない図書館だった。だが、橋下徹大阪府知事の誕生で状況は一変。アクセスが悪い▽一般利用者が少ない▽非効率などの理由で突然、廃館の方針が決まった。存続を求める署名活動や蔵書の寄贈者による本の返還訴訟が起こされたが、覆らなかった。結局、府立図書館に移転となったが、貴重なコレクションは散逸し、利用者の利便は悪化した。住民や研究者、ファン、寄贈者の協力で作り上げた施設は、行政の都合に振り回された。
 これが日本漫画の収集・保存の実態だ。国の図書館は使い勝手が悪く、民間は運営基盤が弱く、自治体の施設は財政に振り回される。そんな中で、期待されるのが大学の試みだ。次回はその動きを追ってみたい。

(プロフィール)
 はしもと・ひろし 1987年から熊本市で漫画古書店「キララ文庫」を営む。時代を超えて生き残る漫画をこよなく愛する「漫画バカ」。