第三回 記事 根強い偏見−漫画読むバカ・読まぬバカ」

本文「 根強い偏見−漫画読むバカ・読まぬバカ」

 「子どもの頃に夢中だった漫画をまた読みたい」「あの物語の結末は」「研究対象として読み直したいので作品を探して」。私のもとには漫画に関する色んな依頼が飛び込んでくる。
 自称「古本漫画探偵」としては、できる限り要望に応えたいが、現実は厳しい。戦後漫画の歴史は60年を超え、蓄積されたコンテンツは膨大だ。希望の本を探すには、発表年や掲載誌、出版社、タイトル、作者など必要な情報が整理され、検索ができるシステムが不可欠。だが、発行された漫画の大半を所蔵するような施設はどこにもない。
 一般の書籍については各地に図書館があり、保存や検索、研究などの態勢は比較的整っている。一方、漫画は何故こんな状態なのか。世間に根強く残る偏見が大きな原因だと思う。
 漫画は長い間、教育の世界で日陰者の扱いを受けてきた。「漫画を読むとバカになる」と言われ、学校図書館にはPTA推薦の学習漫画を除いて置いていなかった。学校周辺の貸本屋には、「悪書追放運動」に熱心な保護者が押し寄せた。学校と地域、保護者が一体となり、子どもに「洗脳」とも言えるほどの反漫画教育が施された。
 時代は変わり、今や漫画は教科書や大学入試の小論文の素材にも使われ、様々な分野の情報源となっている。私が予備校や高校で授業する際にも欠かせぬ素材だ。食文化を語る時は「玄米せんせいの弁当箱」(魚戸おさむ作・小学館)、政治経済なら「島耕作」シリーズ(弘兼憲史作・講談社)、地理では「ゴルゴ」(さいとうたかを作・リイド社)などといった具合だ。今では「マンガを読まないとバカになる」とさえ思う。
 だが、各地の図書館で漫画の姿はほとんど見られない。理由は色々考えられる。漫画より文学を読むべきだという活字至上主義▽漫画が分かる担当者がいない▽漫画があると子どものたまり場になり、盗難が増える恐れがある▽出版数が多すぎて、どう手をつけていいかが分からない、などだ。
 それでも希望はある。全国に目を向けると、部分的ではあるが、本気になって漫画図書館を立ち上げて集客を増やし、蔵書の整理や検索体制を整えようとする施設が増えつつある。次回はその動きを紹介しよう。

○プロフィール
 はしもと・ひろし 貸本漫画探偵。87年から熊本市で漫画古書店「キララ文庫」を営む。福岡市の予備校や〓高校の講師も務める。