第二回 「ゲゲゲの危機/原本希少化、価格高騰で問題も」

「ゲゲゲの危機/原本希少化、価格高騰で問題も」
 この半年は水木しげる一色だった。理由はもちろん、水木夫妻を描いたNHKドラマ「ゲゲゲの女房」。水木マンガと共に生きてきた私はとりこになり、すべて録画して1日最低2回は見て、関連書籍もそろえた。
 ドラマで感心したのは、水木作品の素材を丁寧に集め、再現していたことだ。幼少時の自画像▽戦時中に描いたスケッチ▽単行本の表紙などに描いた原画▽妖怪関連のプラモデルなど、いずれも本物をそろえたようだ。原画が残っていない紙芝居は作り直し、「少年ランド」など架空の雑誌まで作っていた。
 これほど素材にこだわった制作スタッフの頭を悩ませたのは、貸本漫画をそろえることだったに違いない。原本を用意しようにも、ほとんど残っていないことに気づいたはずだ。
 貸本屋の数は昭和30年代前半に迎えたピーク時で全国3万店以上。当時8千店程度だった新刊の書店数と比べると、その隆盛ぶりがよく分かる。そこでは貸本の漫画や小説が独自の商品として、一般の本とは異なる経路で流通していた。だが1冊が読みまわされたので、発行部数は人気作で約1万部、通常は2千〜〜3千部程度と極端に少ない。しかも貸本漫画は消耗品で、役目を終えると大半が廃棄された。さらに水木作品は貸本では人気が低く、発行部数も残存数も最低レベル。今回は幸い、コレクターや民間の図書館の協力などで何とかそろえたようだが、原本集めの難しさを知らしめる結果となったはずだ。
 それは同時に、水木氏の希少本が「作品」ではなく「商品」として流通し始めることも意味した。ドラマのヒットで異常な注目が集まり、「墓場鬼太郎」の記念すべき第1作を掲載した短編集「妖奇伝」は、古本市場で百万円以上を突破した。水木3部作と言われる「鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」のオリジナル作品や時代物、戦記物も軒並み高値をよんでいる。
 新たな問題も出てくる。例えば、高価な本の盗難▽違法なコピー商品の横行▽作品の文化的な価値よりも市場価格が重視される▽復刻本の出版による市場価格の暴落▽価格高騰で研究者や研究機関が入手しにくくなる、などだ。これらを解決するには、昔の漫画が「いつでも、どこでも、誰にでも」簡単に読める施設を作るしかないが、様々なハードルがある。次回はこのテーマを取り上げる。