地元紙の記事紹介

トモさんの読みながら書く=日本の漫画文化は衰退期?
2010.05.26 夕刊 夕読 (全890字) 

 熊本市黒髪6丁目に「キララ文庫」という漫画専門の古本屋があり、そこの主人、橋本博氏は小学校からずっと一度も漫画を手放さずに、もうとにかく集めることに命をかけてきたという人物。まさに「売らない古本屋」だが、昭和23年生まれの団塊の世代日本マンガ学会会員で、研究テーマは「理想のマンガのアーカイブ」。

 橋本氏によれば、日本の漫画文化は衰退期に突入しているという。日本は漫画大国だったが、いまや韓国や中国にどんどん漫画の主導権を奪われている。韓国や中国では国立のアニメ学校を造って漫画家を養成。漫画でちゃんと食えるようなシステムを国がつくって産業として育成している。

 一方、漫画のコレクションが海外に流出している。かつての浮世絵と同じだ。こうした時代の流れから出てきたのが「国立メディア芸術総合センター」の設立構想だったが、政権交代で頓挫。立ち上がったのが明治大学だ。熊本出身の藤本由香里氏が国際日本学部の准教授に就任、頓挫した構想を受け継ぐ形で、同大に東京国際マンガ図書館を立ち上げることとなり、その核となったのが熊本出身のマンガ評論家、故米沢嘉博氏のコレクションだという。

 貸本屋の九州の元締めは阿蘇の内牧にいたそうだ。貸本屋が衰退していったときに各地から回収された大量の貸本漫画が内牧に保管され、石森章太郎らの超貴重本がたくさん眠っていたとか。橋本氏は一足違いで、それらを手に入れ損ない、最大の痛恨事となったとか。さらに貸本屋の元締めも熊本にいたとかで、戦後の一時期までは熊本は九州における漫画文化の物流の拠点だったのだ。

 以上、鶴屋での古書展会場で催され連続講演による『第四十回記念 熊本古書籍即売展講演録』(1500円)の「マンガと共に六十年」から。ほかに中村青史氏「昔、古書店様々、今、素通り」、渡辺京二氏「書物という宇宙」、徳永洋氏「古書で出会った横井小楠」、それに恥ずかしながら小生も。元熊大教授の中村氏は上通の古本屋に下宿していたとか。渡辺氏は大連に住んでいた小学生のころ、ヒトラーやムソリーニの伝記を愛読し、彼らを社会改革運動家と理解していたそうだ。(井上智重)

熊本日日新聞社